EPISODE 1

だい1きりにつつまれたかずもり

ソファでだらーんとしているハル

登場人物紹介とうじょうじんぶつしょうかい

👧
水瀬みなせハル(小学しょうがく4年生ねんせい
算数さんすうがちょっと苦手にがておんな。でも「ちゃんとかんがえようとするこころ」をっている。

水瀬みなせハルは、ためいきをついた。

夕方ゆうがた西日にしびがオレンジいろにそまったリビングで、ランドセルをゆかほうげたまま、ソファにだらーんと寝転ねころんでいた。

「もー、算数さんすうなんてきらいー」

今日きょう授業じゅぎょうのことをおもしながら、ハルはクッションにかおをうずめた。

四年生よねんせいになって最初さいしょ算数さんすう授業じゅぎょう先生せんせい黒板こくばんいたのは、ハルがたこともないくらいおおきな数字すうじだった。

1,000,000,000,000

「これは一兆いっちょう、とみます」

先生せんせいがさらりとったとき、クラスじゅうがざわついた。ハルもをまるくした。ゼロが何個なんこあるのかかぞえることすらできなかった。

一億いちおく一万個いちまんこあつまると一兆いっちょうです。一兆いっちょう一万個いちまんこあつまると……」

そこからさき説明せつめいは、ハルのあたまなかでぼんやりとしたきりのようになって、なにのこらなかった。

* * *

「ハル、おかえり。今日きょうはどうだった?」

台所だいどころからおかあさんのこえこえてきた。エプロン姿すがたのおかあさんがかおをのぞかせ、ゆかころがったランドセルをてちょっとまゆをひそめた。

最悪さいあく算数さんすう、ぜんっぜんわかんなかった」

「どんな内容ないようだったの?」

おくとかちょうとか……すごくおっきいかず。ゼロがおおすぎてもうあたまがぐるぐるする」

かあさんはくすくすわらいながらコップに麦茶むぎちゃいでってきてくれた。

「おとうさんもむかし、そこが苦手にがてだったってってたよ。ゆうごはんのときにいてみたら?」

ハルは麦茶むぎちゃをごくごくみながら、すこしだけ気持きもちがらくになった。

* * *

よるゆうごはんのテーブルでハルはおとうさんにはなしかけた。

「ねえ、おとうさん。一兆いっちょうって、どのくらいおっきいの?」

とうさんははしめて、すこかんがえてからった。

「そうだなあ……たとえば、日本にほん全体ぜんたい国家こっか予算よさん大体だいたい百兆円ひゃくちょうえんくらいなんだよ。一年間いちねんかんくに使つかうおかねはなしだよ?」

「ひゃ、百兆ひゃくちょう……?」

「それから、地球ちきゅうから太陽たいようまでひかりとど時間じかんやく八分はっぷんだろ。でもひかり一年間いちねんかんすす距離きょりを『一光年いちこうねん』ってうんだけど、それがやく九兆きゅうちょう四千六百億よんせんろっぴゃくおくキロメートルなんだ」

「……もう意味いみわかんない」

とうさんとおかあさんがかお見合みあわせてわらった。

「ゆっくりおぼえていけば大丈夫だいじょうぶだよ、ハル。算数さんすうかさねだから」

とうさんの言葉ことばあたたかかったけれど、ハルのなかのもやもやはえなかった。

おおきいかずなんて、どうせ生活せいかつ関係かんけいないし。

そうおもいながら、ハルはお味噌汁みそしるをすすった。

* * *

そのよる、ハルはお風呂ふろはいり、みがき、「おやすみ」をってベッドにもぐりこんだ。

まくらもとの電気でんきすと、部屋へやはしずかな暗闇くらやみにつつまれた。カーテンのすきまから月明つきあかりがほそんで、つくえうえいた算数さんすう教科書きょうかしょをぼんやりらしていた。

明日あした、また算数さんすう授業じゅぎょうがあるな……

そうおもいながらうとうとしかけたとき。

ぴかっ。

電気でんきもつけていないのに、部屋へやなか一瞬いっしゅん、やわらかいひかりつつまれた。

「……え?」

ハルはがばっとがった。

ひかりつくえうえ算数さんすう教科書きょうかしょからていた。教科書きょうかしょ表紙ひょうしが、金色きんいろ紫色むらさきいろがまじりったようなふしぎなひかりでゆらゆらとかがやいている。

「な、なに……?」

こわごわベッドからりて、ハルは教科書きょうかしょちかづいた。

そのとき。

「ハルちゃん! ハルちゃん、きてる!?」

ちいさな、でも元気げんきいっぱいのこえがした。

ピコとの出会い

ハルはおもわず「ひっ!」とこえげてあとずさりした。

しのなかから、なにかがしてきたのだ。

それは、のひらにるくらいのちいさなおんなかたちをしていた。薄紫色うすむらさきいろはねをばたばたとうごかして、あたまには銀色ぎんいろ星形ほしがたかざりをつけている。ちいさなてのひらに、ほのかにひかちいさなつえっていた。

🧚
ピコ(ナンバーランドの守護しゅご妖精ようせい
のひらサイズのちいさな妖精ようせい薄紫色うすむらさきいろはね銀色ぎんいろほしかざりがトレードマーク。元気げんきいっぱい!

「やっときてくれた!ずっとってたんだよ!」

「え、え、なに、あなた、だれ……」

「あたしはピコ!ナンバーランドの守護しゅご妖精ようせいだよ。ハルちゃんのことをずっとまえからてたんだ。算数さんすう教科書きょうかしょってるなかから、一番いちばん勇気ゆうきがありそうなをえらんで——」

「ちょちょちょっとって!」

ハルは両手りょうてをぶんぶんった。

こえおおきい! おとうさんとおかあさんにこえちゃう!」

「あ、大丈夫だいじょうぶだよ。あたしのこえ、ハルちゃんにしかこえないから」

ピコはけろりとしたかおった。

ハルはそーっとドアにみみてた。廊下ろうかこうはしずかで、両親りょうしんきてきた気配けはいはない。

「……本当ほんとうこえてないみたい」

ハルはためいきをついてから、あらためてピコをじっとた。

「ナンバーランド、ってなに?」

ピコのかおがさっとくもった。

「それをはなしにたの。ハルちゃん、大変たいへんなことがきてるんだ」

ピコは算数さんすう教科書きょうかしょ表紙ひょうしうえにちょこんとすわり、真剣しんけんかおでハルにはなはじめた。

「ナンバーランドはね、かずかたちでできた世界せかいなの。かわには小数しょうすうながれてて、やま三角形さんかくけい四角形しかくけいでできてて、には分数ぶんすうがなってる。あたしたちナンバーランドのみんなは、ずっとその世界せかい平和へいわらしてたんだけど……」

ピコはをふせた。

最近さいきん、『カオスのきり』がひろがってきてるの」

「カオスのきり?」

「まちがいや、あいまいさからまれるきりなんだ。きりくなると、数字すうじめなくなって、かたちくずれて、みちえちゃう。ナンバーランドの秩序ちつじょが、どんどんみだれていくの」

ハルはまゆをひそめた。

「そのきりって、なんでひろがってるの?」

「それが……」ピコはすここえとした。「ムゲン、っていう存在そんざいがいるの。むかしはナンバーランドをまもってたひとなんだけど、算数さんすうかんがえることがいやになって、正確せいかくかんがえることをやめちゃったの。そのムゲンがカオスのきりあやつって、ナンバーランドにおくんでるんだ」

算数さんすうかんがえることをやめた……」

ハルは、さっきこころなかおもったことをおもした。

おおきいかずなんて、どうせ生活せいかつ関係かんけいないし。

なんだか、すこしだけドキッとした。

「ハルちゃんにてほしいのは、カオスのきりらすためなの。きりらすことができるのは、算数さんすうちからだけ。そして、算数さんすうちからをちゃんと使つかいこなせる人間にんげんどもだけなんだよ」

「わ、わたし? でもわたし、算数さんすう苦手にがてだよ? 今日きょう授業じゅぎょう全然ぜんぜんわかんなかったし」

大丈夫だいじょうぶ!」

ピコがぱっとかおげ、ハルのをまっすぐた。

「ハルちゃんが苦手にがてなのはってる。でも苦手にがてでも、ちゃんとかんがえようとするこころがあるじゃないと、算数さんすうちから使つかえないの。丸暗記まるあんきしたってちからにはならないんだよ。かんがえて、づいて、なるほど!ってなったとき、はじめてちからになるんだ」

ハルはしばらくだまった。

ピコの薄紫うすむらさきはねがふわふわとゆれていた。

「……わかった」

ハルはゆっくりがった。

く。ナンバーランドに」

ピコのかおがぱあっとかがやいた。

「ほんと!? やったー! ピコっと計算けいさん!」

「じゃあ、まず算数石さんすうせきって」

ピコがつえ一振ひとふりすると、ちいさなひかりつぶがハルのむねのあたりにふわりとあつまり、青白あおじろ宝石ほうせきのペンダントにわった。ハルがれると、かすかにあたたかかった。

「それがハルちゃんの算数さんすうちからみなもとだよ。ナンバーランドにいるあいだだけ、算数さんすう問題もんだいただしくけたとき、そのいしかがやいて魔法まほう使つかえるようになる」

「どんな魔法まほう使つかえるの?」

単元たんげんによってわるよ。きりらしたり、みちつくったり、こわれたものをなおしたり。でもかならず、ただしくかんがえないとうごかないから注意ちゅういして」

ハルはペンダントをそっとにぎった。

「うん。わかった」

「それと——」ピコが人差ひとさゆびてた。「あたしはヒントはしてあげられるけど、こたえはおしえてあげられないの。ハルちゃん自身じしんづかないと、いしひからないんだ。いい?」

「……けっこうきびしいな」

算数さんすうだもん!」

ピコはにっこりわらった。

* * *

教科書きょうかしょひかりがふたたびつよくなった。

表紙ひょうしに、とびらかたちをしたひかり輪郭りんかくかびがってきた。

算数さんすうドアだ! いてる!」ピコが興奮こうふんしたこえげた。「こう、ハルちゃん!」

「え、ちょっとって、このまま? パジャマで?」

大丈夫だいじょうぶ、ナンバーランドにはいったらこうのふくわるよ!」

ハルは一瞬いっしゅんかえった。

しずかな部屋へや。カーテンのすきまの月明つきあかり。ドアのこうでねむっているおとうさんとおかあさん。

ハルはぐっとこぶしをにぎった。

ってきます」

ちいさく、でもはっきりとって、ハルはひかりとびらんだ。

* * *

つぎ瞬間しゅんかん、ハルはつめたくてしんとした空気くうきなかっていた。

足元あしもとつち地面じめんあたまうえには、現実げんじつ世界せかいとはちがほしひろがっていた。ほしならかた数字すうじかたちをしていて、そら全体ぜんたいに「0」や「1」がりばめられているようにえる。

あたりはふかもりだった。巨大きょだい木々きぎならび、そのみきには数字すうじがびっしりときざまれていた。

でも、おかしかった。

もりこうから、しろっぽいもやがながれてくる。きりだ。そのきりつつまれると、みき数字すうじがぼやけてめなくなり、かたち輪郭りんかくうしなって、ふわふわとくずれそうになっていた。

数の森に立つハルとピコ

「これが……カオスのきり

ハルはつぶやいた。

「そう」ピコがかたうえって、しずかにった。「このもりは『かずもり』。一万いちまん百万ひゃくまん一億いちおく百億ひゃくおく……おおきいかずきざまれたがたくさんあるんだけど、きりつつまれるとめなくなっちゃう。かずめなくなると、このもりらしてるみんながこまるの」

ハルはそら見上みあげた。

きりなかに、うっすらとなにかがえた。数字すうじが……くずれていく。

一億いちおく十億じゅうおく百億ひゃくおく十兆じゅっちょう。——それらの数字すうじが、きりなかでぐにゃりとかたちえて、意味いみをなくしていく。

「あの数字すうじを、ちゃんとめるようにすれば、きりれるってこと?」

「そうだよ! おおきいかずのしくみを、ちゃんとかんがえて理解りかいできたとき、いしひかってきりれるちからるんだ」

ハルは算数石さんすうせきをそっとた。

いまくらくてひかっていない。

わたしに、できるかな。

不安ふあんはあった。でも、ハルはもりおくつめた。きりなかに、かすかにあたたかいひかりがある。だれかが、たすけをっているようながした。

「ピコ」ハルはくちひらいた。「まずなにをすればいい?」

今夜こんやは、おおきいかずもりきりらすことが最初さいしょ使命しめいだよ。でもね——」ピコはすこもうわけなさそうにった。「このもりはとってもひろいの。おおきいかずきり完全かんぜんらすだけでも、もうすこさきすすまないといけなくて……」

さきすすむ? どこへ?」

もりをぬけると、つぎのエリア『ざんしろ』がえてくるはずなの。おしろにもきりながはじめてるってはなしいてて。おおきいかずちからをつけながらすすんで、おしろまでかうのがいま目標もくひょうなんだ」

ハルはうなずいた。

「わかった。じゃあすすもう」

そのとき、もりなかからかさかさとおとがした。

ハルはおもわずピコのうでをつかんだ。

「な、なに?」

大丈夫だいじょうぶだよ、きっと——」

おとちかづいてくる。

がさっ、がさっ。

かげからあらわれたのは……まだハルにはえなかった。きりくて、輪郭りんかくがぼやけている。

「あれは……」ピコがほそめた。「きりまよいこんだだれかかな。つぎ仲間なかまかもしれない。ってみよう」

ハルはおおきくいきった。

パジャマのわりに、いつのにかあかいマントに水色みずいろふく着替きがえていた。むねには算数石さんすうせきのペンダントがひかりっている。

大丈夫だいじょうぶ。ちゃんとかんがえれば、きっとできる。

ハルはピコと一緒いっしょに、きりふかかずもりおくへとした。

ざんしろへとつづみち目指めざして。

📝 今回こんかいのポイント

おくちょうなどのおおきいかずは、かずくらいのしくみがかさなってできています。一万いちまん一万個いちまんこ一億いちおく一億いちおく一万個いちまんこ一兆いっちょう……おおきくなるほどゼロがえますが、しくみはおなじです。次回じかい、ハルと一緒いっしょかず正体しょうたいせまっていきましょう!

だい2「おしろすくえ!わりざん挑戦ちょうせん」へつづく〜

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